2026年のCOMPUTEX TAIPEIに3年ぶりに行ってきました。あまり私のうあってるecや広告のコンサル事業と関係ないのですが、台湾の半導体などの実態を今一度勉強しなおそうと思いまして、台北・南港展覧館の広い会場を4時間ほど歩き回り、有名メーカーのブースを片っ端から覗いてきたました。
スマホでAIに企業の情報を聞きながらブースを回った結果、結論、
「台湾は、もう”PCやスマホを安く作ってくれる工場”のイメージではなくなっている。今はAI時代の世界の物理インフラそのものを設計・量産できる、唯一無二のエコシステムを持つ場所になっている」
この台湾展示会の現場で目にした光景は、今後の台湾ビジネスを考えるうえで非常に大きなヒントになると感じました。専門用語が多くて少しわかりにくいかもしれませんが、この記事ではそこを順を追って、なるべくシンプルに説明していきたいと思います。
「エコシステム」って何?

エコシステムは元々「生態系」という生物学の言葉で、森の中で植物・虫・鳥・動物・微生物がそれぞれの役割を持ち、お互い支え合って成り立っている状態を指します。
これがビジネスの世界に転用されると、「ある産業を成り立たせるために、多くの会社が分業し、お互いに依存し合って一つの大きな仕組みを作っている状態」を指す言葉になります。
例えばiPhoneでいうと、Appleが設計図を引き、Foxconnが組み立て、Sonyがカメラセンサーを作り、Samsungがディスプレイを供給し、TSMCがチップを焼き、世界中のアプリ開発者がApp Storeを支える、というように非常に多くの会社が役割を持って関わっています。これら全体が「Appleのエコシステム」です。1社では絶対に作れません。
今回のCOMPUTEXで見えてきたのは、これと同じ構造が「AIサーバー」という分野でも出来上がっていて、その中心がNVIDIAで、参加メンバーの大多数が台湾企業だった、ということです。
なぜ世界中がAIに沸いているか、まず大前提の話

ChatGPTやGoogleのGemini、画像生成AIなど、ここ数年で「AI」が爆発的に普及しました。これらのAIは、私たちのスマホやPCの中で動いているわけではなく、世界のどこかにある巨大な「データセンター」というビルの中で動いています。
データセンターとは、要するに大量のコンピューター(サーバー)を集めた建物のことです。AIを動かすためにはものすごい計算能力が必要なので、世界中で巨大なデータセンターが急ピッチで建設されている、というのが今のITブームです。
そしてそのデータセンターの中で動いているコンピューターのほぼ全てに、NVIDIAという会社が作ったGPUという半導体が入っています。世界がAIに沸けば沸くほど、NVIDIAの売上が爆発的に伸びるという感じです。
主役のNVIDIAは、実は「設計図」しか作っていない

ここで意外な事実があります。世界のAIブームの主役であるNVIDIAは、自社で完成品のAIサーバーを大量生産していません。
NVIDIAがやっているのは、GPUなどの「コアの半導体」を作ることと、「AIサーバーはこういう構造で作ってください」という参考設計図を提供することです。実際にAIサーバーを組み立てたり、電源を供給したり、冷却装置を作ったり、ケーブルでつないだりするのは、全部別の会社の仕事です。
そして、その「別の会社」の大多数が、台湾に集まっていて、NVIDIA公式によれば、台湾には500社を超えるNVIDIAパートナー企業が存在しています。COMPUTEXのほぼ全てのブースに「NVIDIA」のロゴが掲げられていたのは、まさにこのためです。(出典:NVIDIA Blog「Taiwan’s Industry Titans Turbocharge World’s AI Infrastructure」 https://blogs.nvidia.com/blog/taiwan-ecosystem-ai-infrastructure/ )。
AIサーバーという「巨大な装置」を、どの会社がどの部分を担っているか

ここでまず、AIサーバーの実体イメージをつかむために「サーバーラック」という言葉を説明させてください。
サーバーラックとは、簡単に言うと「サーバー本体を何台も縦に積み重ねて収納する、業務用の金属棚」のことです。家庭用の棚と違うのは、棚板1段1段が「サーバー1台」になっていて、その全てが電源とネットワークでつながり、1つの大きな計算装置として動く、という点です。会場で展示されていたものは大体、家庭用の大型冷蔵庫を縦長にしたようなサイズで、高さは2メートル前後、中には数十台のサーバーや無数のケーブル、冷却用のチューブがびっしり詰まっています。
データセンターというのは、このサーバーラックが何百台、何千台と並んだビルだとイメージしてください。AIサービスはこのラックの中で動いているわけです。
このサーバーラック1台を作るために、必要な要素は大きく分けて5つあります。

1つ目は「頭脳」となるGPUや半導体チップ。これはNVIDIAやAMDが作ります。
2つ目は「箱を組み立てる人」、つまりサーバーラック全体を設計し製造する役割。これがFoxconn、Wistron、Wiwynn、MSI、Qisdaといった台湾の組み立てメーカーの仕事です。
3つ目は「電気を供給する装置(高性能電源装置)」。これは後ほど詳しく説明しますが、家庭でいう電線やスイッチではなく、もっと大型・複雑な業務用の電力変換・配電システムです。これがDelta(台湾)やVertiv(米国)の領域です。
4つ目は「冷却装置」。電気をたくさん使うと熱がものすごく出るので、もはや扇風機(空冷)では追いつかず、水で直接冷やす「液冷」が主流になりつつあります。これもDeltaやVertivが手掛けています。
5つ目は「電気と信号を運ぶケーブルやコネクタ類」。一見地味ですが、これも専門メーカーが担っています。
NVIDIAは1のチップと、「全体としてこういう設計で作ってください」という青写真を渡すだけ。残りの2〜5を実際に作って組み立てているのが、ほぼ全て台湾の会社、という構図です。
補足:「高性能電源装置」って、要するに何?

3つ目の「高性能電源装置」について、もう少し詳しく説明させてください。家庭の電線やスイッチを想像するとイメージが合わないので、まず家庭との違いから整理します。
家庭の場合、電力会社から100Vの交流(AC)が壁のコンセントに届いていて、それをそのままドライヤーや電子レンジに使う、というシンプルな構造ですよね。間にあるのはせいぜいブレーカーくらいです。
ところがAIデータセンターの場合、こんな単純にはいきません。建物に引き込まれてくるのは数千ボルトの「業務用高圧電気」で交流(AC)です。一方、サーバーの中のGPUやCPUは「低い電圧の直流(DC)」でしか動きません。つまり間に「電圧を下げる」「交流を直流に変える」「複数のラックに分配する」「停電したら一瞬で予備電源に切り替える」「全体を監視・制御する」といった複雑な処理が必要で、これら全部を担うのが「高性能電源装置」です。
COMPUTEXで撮ってきた写真と、それぞれのメーカーの役割

ここから、実際に会場で撮ってきた写真を順番に見ながら、各メーカーがどのポジションを担っているか紹介していきます。
Foxconn(鴻海科技集團)— 世界最大の組み立て屋がAI時代の主役へ

最初に訪れたのが、日本でも有名な鴻海(Foxconn)のブースです。「NVIDIA Vera Rubin NVL72 Compute Tray」という最新の機材が展示されていました。Compute Tray(コンピュートトレイ)とは、サーバーラックに差し込んで使う「引き出し型のサーバー本体」のことで、ラックの中身の最重要パーツです。
Foxconnは1974年に台北で創業された会社で、世界最大の電子機器の受託製造業者です。日本ではiPhoneの組み立てを担っている会社として有名ですね。
近年はそのままの製造ノウハウをAIサーバーに転用しており、CNBCの報道によると2025年の通期売上はNT$8.1兆元(約40兆円規模、前年比18%増)、第3四半期のAIサーバーラック出荷量は前四半期比で300%増という驚異的な伸びを見せています(出典:Hon Hai公式 https://www.honhai.com/en-us/press-center/press-releases/latest-news/1978 、CNBC https://www.cnbc.com/2025/12/05/nvidia-partner-foxconn-reports-26percent-revenue-spike-as-ai-boom-continues.html )。
ポジション:先ほどの分類の「2.箱を組み立てる人」の最大手。NVIDIAの最新AIサーバーの量産パートナー。
Qisda × BenQグループ — 消費者ブランドの裏にある巨大製造業

次にピンクのBenQロゴが目を引くブースに行きました。看板には「Qisda × AMD EPYC AI Infrastructure」と書かれていました。
日本でBenQといえばモニターやプロジェクターのブランドというイメージですが、実は台湾では20社以上のグループ会社を抱える「BenQ Qisda Group」という巨大コングロマリットで、製造・サーバー事業を統括するのがQisdaという会社です(出典:Qisda公式 https://www.qisda.com/en/about/group-intro )。
このブースが他社と違って面白かったのは、NVIDIAではなくAMDの「EPYC」というCPUを採用したAIインフラを展示していた点です。NVIDIAエコシステムが激戦区なので、あえてAMD陣営に立つことで差別化を図っている、という戦略が見て取れました。
ポジション:「2.箱を組み立てる人」、ただしNVIDIAではなくAMD陣営に立つ少数派。
MSI(微星科技)— ゲーミングメーカーからAIインフラ企業へ

赤いドラゴンのロゴでお馴染みのMSIは、ちょうど2026年で創業40周年を迎えていました。日本ではゲーミングPCのブランドとして知られていますね。
注目すべきは、最近MSIがB2Bのサーバー事業にも本格参入している点です。「RACK INTEGRATION」(ラック統合)と書かれたコーナーでは、昔ながらの「19インチラック(空冷)」と最新の「21インチORv3ラック(液冷)」を並べて展示し、「新旧の世代交代」を象徴的に見せていました。ちなみにラックのサイズは「内部に取り付けるサーバーの幅の規格」のことで、何十年もの間19インチが業界標準でしたが、AI時代に向けて、より広く・液冷に対応した21インチ規格(ORv3)に切り替わりつつあるところです。
MSI公式によれば、新型の液冷ラックは1台で最大100kWの電力に対応します(出典:MSI公式 https://eps.msi.com/ )。これは一般家庭20軒分の電力を1台のラックで消費するというレベルです。
ポジション:「2.箱を組み立てる人」、ゲーミング技術をベースにAIサーバーへ参入。
Delta Electronics(台達電子)— AIデータセンターの「電気と熱」を握る巨人

個人的に今回最も「凄い会社だな」と思ったのがDeltaでした。看板には「NVIDIA Vera Rubin Platform」と書かれ、巨大な銀色のラックが並んでいました。
Deltaは1971年創業の台湾メーカーで、世界中のデータセンターで使われる「電源装置」の最大手企業です。2024年の連結売上はNT$421.1億元規模(出典:PESTEL Analysis https://pestel-analysis.com/blogs/competitors/deltaww )。
なぜこの会社が重要かというと、NVIDIA、AWS、Google、Microsoftといった世界の超大手データセンターで使われている電源(先ほど補足で説明した変換装置・配電装置・バスバーといった一式)の多くが、実はDelta製だからです。AIブームの真の裏方ともいえる存在で、ジェンスン・フアン氏(NVIDIA CEO)もCOMPUTEX会期中にDeltaブースを訪問し「We love building with Delta」と発言しています(出典:Delta公式Instagram https://www.instagram.com/p/DZIEjSeFDKu/ )。
ポジション:「3.電気を供給する装置」「4.冷却装置」の両方を担う、AIインフラの心臓部メーカー。
Vertiv — 800V直流時代を切り拓く米国インフラメーカー

台湾メーカーが多い中、米国勢として目立っていたのがVertivでした。「Vertiv PowerDirect 9000 — 1.6MW, 800VDC Power Center」という巨大な電源装置が展示されていました。これは1.6メガワット(家庭320軒分)の電力を、複数のサーバーラックにまとめて供給するための、いわば「ラックの隣に置く専用変電所」のような装置です。先ほどの補足で説明した「変換装置」の最新世代版、と思ってください。
Vertivは米国オハイオ州の会社で、データセンター業界で60年以上の歴史を持つ「Liebert」ブランドを擁しています(出典:Wikipedia https://en.wikipedia.org/wiki/Vertiv )。
ここで展示されていた「800VDC(800ボルト直流)」というのは、AIデータセンターの新しい給電方式です。最新のAIサーバーラックは1台で1メガワット(家庭200軒分)もの電気を喰うので、もはや従来の交流電源では物理的に対応できず、業界全体が直流給電に移行しつつあります(出典:NVIDIA Developer Blog https://developer.nvidia.com/blog/nvidia-800-v-hvdc-architecture-will-power-the-next-generation-of-ai-factories/ )。
ポジション:「3.電気を供給する装置」、米国勢の代表格、800V直流の旗振り役。
Wistron × Wiwynn — ハイパースケーラー向けODMの台湾代表

最後に取材した2社は、実は親子会社の関係でした。Wistronが親会社、Wiwynnは2012年にWistronから分社した子会社です(出典:Wiwynn公式 https://www.wiwynn.com/about-wiwynn/company-info )。
Wistronは2001年にAcerから分離して誕生した台湾の大手受託製造業者で、近年はAIサーバー事業を急成長させています。NVIDIAはWistronの新竹県工場のサーバー製造ラインを2026年まで丸ごと貸切予約しているという報道もあります(出典:Yahoo Finance https://finance.yahoo.com/news/nvidia-secures-entire-wistron-plant-185445590.html )。
子会社のWiwynnは「ハイパースケーラー専門」という独特のポジションで、Meta、Microsoft、AWS、Googleといった超大手クラウド事業者専用のカスタムサーバーラックを製造しています(出典:Silba Deep Dives https://silbadeepdives.substack.com/p/6669-wiwynn-the-heavy-metal-behind )。普段皆さんがInstagramやFacebookで投稿している写真は、Wiwynnが作ったラックの中で処理されている、と言っても過言じゃないです。
ポジション:「2.箱を組み立てる人」の中でも、世界最大級のクラウド事業者専門のハイエンド製造を担当。
台湾の競争力が変わった瞬間を見た

ここまで紹介してきた会社を、改めて図のように整理してみるとこうなります。
頂上にNVIDIA(と少数のAMD陣営)がいて、設計図と頭脳を提供する。
その下で、Foxconn、Wistron、Wiwynn、MSI、Qisdaといった台湾メーカーがサーバーラック本体を組み立てる。
さらにその下で、Delta(台湾)とVertiv(米国)が電気と冷却を担う。
そしてその全部をつなぐケーブル類も、また別の専門メーカーが供給する。
この全員が揃って、初めて1つのAIデータセンターが動く。これこそが「AIエコシステム」です。
そして、このエコシステムの参加メンバーをよく見ると、頂上のNVIDIAは米国企業ですが、実体としての「箱・電気・冷却・ケーブル」を作っているプレイヤーの多くが台湾の会社です。
ここで冒頭の結論に戻ります。
台湾の競争力の中核は、もはや「PCやスマホの組み立て」ではなく、「AI時代の物理インフラを設計・量産できるエコシステム全体」に移っています。COMPUTEX 2026は、まさにその転換点を象徴するイベントでした。
10年前まで、台湾といえば「安いPCの工場がある場所」という認識だった方も多いと思います。しかしいま、世界のAIサービスが動くために絶対不可欠な物理インフラの大半が、ここ台湾で設計され、組み立てられ、世界へ出荷されています。NVIDIAがどれだけ優れたGPUを設計しても、台湾のエコシステムがなければ製品として世に出ない、というところまで関係は深くなっています。
日本の中小製造業の方や貿易関係の方にとっても、台湾はもはや「安く作ってくれる工場」ではなく、「世界のAI産業の中枢を担う技術パートナー」として再認識する必要がある時代になってきました。
私自身、台湾で独立して事業を始めるタイミングでこの光景を見られたのは、本当に意義深いタイミングだったなと思っています。今後の事業の中でも、こうした台湾現地ならではの情報を、日本の皆さんに届けていきたいと思います。
